ヨーロピアンクラブ アイルランド
バンカーについて私論
Jul. 2025 中田浩人
ゴルフコースにとって、いや、景観にとってといった方が良いかもしれないが、景色の中においてアイポイントといったものはあり、コントラスト言い換えれば、アクセントが生じてくる。色や形の変化によってである。ゴルフコースのように自然の景色やFWやRFといった芝生の空間の中に異物、つまりバンカーや象徴的な樹木や川や池など、中には東屋やクラブハウスの建築物等である。それらがあることで景観は味を出すものだ。また、それらの入り方によってダサいモノにもなる。バンカーはゴルフコースにおいて非常に大きなファクターであり、その入り方や形状の織り成すライン、見え方など設計家においてこれほど重要なものは無いといえる。
しかしながら、一般のプレーヤーにおいて、それをどこまで感じることが出来るのだろうか?私には単純にあまり理解が出来ない部分がある。バンカーに入るか入らないか、入ってリカバリーのバンカーショットがいかに上手く打てたか、失敗してしまったかに終始していているように感じる。そのバンカーの景観的なバランスだったり、ラインの美しさ、戦略上の意味合いなどどのように感じ取られているのだろうかと思いを巡らす。今そこにあるものに対して、人は打つべきショットの不安感や挑戦心といった感覚や感情のような対面する臨場感の中においては戦略的な意図を感じるプレーヤーは少なからずいたとせよ『美』という観念に身を置くことはなかなか難しいのかもしれない。
かといって、作る側の身になればそれを感じ、ゴルフの面白さやそのコースでプレーする価値に身をゆだねてもらいたいという一心で作っているのである。
『バンカーがあると難しい』それはそうであるが、私のようにアプローチショットが下手のゴルファーにとってはバンカーの方が、よほど気が楽である。トムドークの『ゴルフコースを解剖する』という本の中でも彼はプロにとってはバンカーの方が易しいと表現する。私も同感である。大衆ゴルフコースの経営者達は『バンカーをなくしていいスコアーが出やすいコースにしたらゴルファーが喜んで集客が上がるんです』という。確かにそういうゴルファーもいるのでしょう。ただ、本当にそれでいいのですかと私は問いたい。
先のも申し上げたが、バンカーはゴルフコースにおいての景色づくりの一部である。それをなくしてゆくとどうなる?ただの芝生の遊び場となり、しまいには『飽きる』ことにはならないのだろうか?自分さえよければそれでいいという身勝手な思想がそこに垣間見えてしょうがない。全くばかげた発想としか私には思えないのである。
それはそうと、本題に取り掛かろうと思う。それは、バンカーの数の話。世界のトップコースを見たり、話題のニューコースを見ると、象徴されるホールにおいてバンカーは多用されていることを感じる。なぜならば、景色が美しくより戦略的なホールと感じ入れるからであろうと思う。それがコマーシャルとなり、世界のディープなゴルファーはそれに挑戦したくなるからであろうと思う。そのようなコースのプレーフィーはゆうに日本のバンカーを少なくして喜んでいるコースの料金の10倍を超えるのである。単純な話、優しいコースは安価で難しいコースは値が張るのである。収支や集客のバランスを考えればどう考えるべきなのかであるが、日本の場合はそこ士話が厄介で、難易度を上げて良いコースになり得るコースがあまりにも少ないのである。それすなわち、バブル期に出来てしまった日本のクラブの現実。法規制が日本のゴルフコースを素晴らしいものに作らせなかった。もう一つは、その当時のオーナーが利益本位で安直に作ってしまった。その両面が伺える。
またまた飛んでしまったが、『バンカー』を話そう。
近年、原点回帰たるクラシックデザインのコースを日本でも見かけるようになった。それはアリスターマッケンジーやハリーコルト全盛の時代の結果論的に自然を取り込んだ不整形で歪で、自由で複雑なラインのつながりである。の本においてはどちらかといえばアメリカンモダンの影響の方が強く、ある程度大きな曲線を有する方が好まれそのようなラインは逆に新鮮にさえ思える。それは、ラインの問題ではあるが、もう一つ最も大切なのはそのセッティングのあり様である。バンカーは何故、そこにあるべきなのか?それは設計上の戦略性を表現するうえで最も象徴的にプレーヤーに訴えかける一つのアイテムであるからであり、言わば『道先案内』としての道具である。そのホールにおいて向かう場所と逃げるべき方向性を与えている。悲しいかな、日本のコースの殆どは玉止め的なものやなんとなくあるようなサイドバンカーが多すぎて、日本人ゴルファーの大半はその意味合いはただの邪魔ものとしか理解できていないようになっているコースが多いのでなは無いかという事。
私の思う事は、様々なプレーの方向性を制御し、挑戦意欲を掻き立てるバンカーは必要であり、寄せるに難易度を感じるラフエリヤや、優しいエリアをちりばめることがゴルフコースにおいての質を向上できる設計上の手段と考えている。そのバンカーとそこからのグリーンの傾斜の作り方や、セカンドからの視覚的に理解しやすいターゲットを生む事が望ましいと考える。
一方で、バンカーのないホールで素晴らしいホールも幾つもあるもの。バンカーがあればよいというものでもないとも考える。以下に象徴的で景観にマッチし、プレーの醍醐味を感じさせることが出来るバンカーであるかが問われるものだと考える。バンカーだらけのホールもあれば、少なく、又はないホールもある。そういったコースが面白いと私は思うし、造ってみたいと考える。全てはバランスの上にあると確信している。